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「お疲れ様」
演奏が終わり、スタッフ用の控え室に行くと、壁に体を預けて寄りかかっている彼がいた。
「関係者以外立ち入り禁止ですよ。空さん」
と、言いつつも内心嬉しいのは表に出さない。
「マスターの許可があるから大丈夫!」
大人な雰囲気が崩れた彼の無邪気な笑顔は僕にとって、殺傷レベル級のときめきを起こす。
たぶんその辺の女の子もその場にいたらドキドキなんてもんじゃないと思う。
川西 空(かわにし そら)さんはこのカフェの常連で、毎日のように来店する。
整った顔立ちと長身のルックスで少々噂になりつつある。
空さん目当てで来店する女性のお客さんは少なくない。
実はマスターの島さんとは飲み友達らしい。
「音羽、今日はもうあがり?」
「はい。今日はピアノだけですから」
たまに人手が足りないときは、ピアノ以外にフードを作ったり、お酒も作ったりもしている。
ウェイターも時々。
「じゃあ、一緒に帰ろう。今日車だから送るよ」
車のキーを目の前に見せる空さん。
「ついでに今日泊めてくれたら嬉しいな」
先ほどまでの子供のような笑みが大人独特の意地悪そうな笑みに変わる。
「だめ」
本当は嬉しいんだけど…。
「えー」
あ、子供に戻った。
「おもてなしするものなにもありませんので」
「ああ、大丈夫大丈夫。音羽君いればそれだけでもてなされるから!さぁ帰ろ帰ろ!!」
腕を引かれ、従業員出口へ一直線。いつの間にか僕の荷物は空さんの手にあった。
「あ、ちょっと!だめだってばーーー」
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