君を労りたい

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お館様の隣でぼんやり他の奴らの柔道を見てれば、「すみません」と言う聞いたことのある声に顔を上げてしまい、奴の顔を確認して直ぐ様お館様の胸元に飛び付いた。 厚めの胸板最高。 「うお、どうした村瀬! って、榊原、どうしたんだ」 俺の突然の奇行に慌てたものの、慣れたのか背中をぽんぽん撫で回しながらお館様は奴、英知に声を掛ける。 話し掛けなくて良いんだお館様、そんな奴! 「いえ、組み手をしようにも一人余ってしまって……」 よりにもよって余ったのかよ、お前。 ぼっちだからか、そうなのか。 「あぁ、そうか。待ってろ……と、村瀬、少し横になってなさい」 「あー」 お館様に頭をそっと床に下ろされ、横たわる形になる俺に「よし」と頷いたお館様は組み手をする生徒たちの群れの中に行ってしまった。 そのせいで英知が俺を見下ろしてくるので、壁の方に寝返る。 「樹、辛いのか?」 「……、辛くなかったら、お館様の授業で俺がこんな寝てるかよ……」 「そうか。食欲は?」 「ない」 「……わかった」 何がわかったんだ、と少し視線を向ければ、英知はお館様に呼ばれ戻ってく。 わかったって何だ。 何しに来たんだ、あいつ。 体育も終わり、お館様が保健室に連れてきてくれたお陰で、童顔をこれでもかと険しくさせる久しぶりなハニー先生のおでましだ。 「君は、1年に1回は風邪引かなきゃ気が済まねぇんですか?」 と久々の口の悪い敬語と童顔に癒されにやにやしてれば、「熱で頭が?」と失礼極まりないことを言われながら薬を渡される。 「飯食えるなら食ってこれ飲んで大人しく寝てりゃあ良くなるんじゃねぇですかね。疲労とストレスが原因って自分でもわかってんですし。あと、湿布。腰も打ったまま働きづめだったって聞いてたんで、貼って寝るように」 ハニー先生はそう言い、「仕方ねぇから辛かったら寝てっても良いですけど、部屋のが静かなんじゃねぇですか」と言いながら俺を保健室から追い出した。 まぁ、確かに物珍しさに何人か見世物と勘違いして来そうだな、お館様には早退届出して貰えるしオートロックの寮部屋のが寝れそうだ。 帰って寝るか、と歩き角を曲がればサムが壁を背にして出迎えてきた。 「今回は、俺が甘やかす番だな」 とニッと笑うサムが大層イケメンで何よりだ。 差し出してきた右手にお手するように乗せれば、「お利口」って茶化してきやがった。 何だよそれ、今度田崎に使え。
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