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何でこんな所に土鍋が落ちてるんだ、何だ、ドロップアイテムか?
誰かの落とし物かと思いたいが、幻聴にしてははっきり聞こえたチャイムと部屋の前の土鍋。
「おぉ……」
そろっと開けてみれば、お粥だ。
部屋の前にお粥……って、これはもしかして誰かが俺の為に作ってくれた、と思って……良いのか……?
拾い食いは流石に卑しいか、いやでもこれほっかほかなんだよな。
……どうするかな、これ。
「樹くん? 部屋の前でどうしたの?」
「! う、じ、まさ……これ、お前……?」
いつの間にか袋を持って俺の前に立ってた氏政に土鍋を指せば、「え」ときょとんとした様子の氏政はしゃがみ込んで首を横に振った。
「僕は、料理は出来ないから違うよ」
マジか。
こいつ何でも出来るイメージがあったから料理も出来るのかと思ってた。すまん。
「誰かが樹くんにって作ったのかな? 何か入ってるかも知れないね、媚薬とか!」
「病人に盛って、どうするんだよ……」
「樹くんのことを狙ってる人なんて掃いて捨てても追い付かない程居るからね、毒味しよう」
そんな悪趣味お前とサムくらいだろと思うが、氏政が袋から使い捨てのアイス用のスプーンを取り出し、お粥を一口食べた。
マジで毒味しやがったこいつ、つかスプーン持ってるとか用意良いな?
「……うん、何も入ってない、普通のお粥みたい」
「そ、そうか……で、お前、何しに来たんだよ……」
授業中だろ、と見れば、そっと額に手を当てられる。
「和田くんが授業に出て樹くんの為にノートを取るなら、看病は僕の出番だと思いまして!」
「……要らない」
「嘘だよ。だって樹くん」
奴は俺の額から手を離し、目を細めて微笑んだ。
「もう君に、寂しい想いをさせたくないので」
「……寂しくない」
「ふふ」
「帰れ」
「アイス、買ってきたよ。ハー○ンダッ○です!」
「……アイス置いて、帰れ」
「アイス溶けちゃうよ?」と土鍋を持って笑う氏政の言葉に、仕方なくドアを開ける。
アイスと誰が用意したかは知らないお粥が冷えるのが癪だっただけで、こいつに寂しいのを肯定した訳じゃない。
「! 美味い……俺の、好きな、味付けだ」
「え……うーん、成る程」
お粥を頬張る俺の言葉に、氏政が爽やかな笑みで頷いたんだが、何が成る程なんだ。
にしても、本当に俺の好きな味付けで、気付けば完食した。
体調崩してからようやくマトモなもの食べた。誰だか知らないが有り難い。
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