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その為に、警察にリークしたのだろう。
「何それ……」
「えっと、ねぇ、大丈夫?」
「…………」
互いに名前すら知らない沙菜と運転手は、東京駅の前で動けなくなった。
終電までは時間がある。
通行人に、その姿を見られながらも周囲を気にもせず、それぞれの世界で頭を巡らせている。
「そうよね。捨てられたなら、あの人に依存する必要は無いじゃない」
沙菜は、そう言ってから運転手を見た。
そして、一瞬だけ固まる。
その瞳に光が宿り、まるで希望を見いだしたように、運転手に歩み出る。
「ねぇ、私と一緒に逃げて」
「えっ?」
「お願い、私と逃げて」
「えっ、でも……」
沙菜は、男の手を強引に引くと、終電に乗り遅れないように東京駅へと駆け込んだ。
車は、置き去りにして。
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