♯10 陸道と陸水

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        【 2 】    千葉県千倉港近くの岸壁。  深夜であり、街灯が無い事もあって、下手に足を踏み出せば岸壁から、足を踏み外しそうな場所に数人の人影があった。  全身黒づくめ。  暗視ゴーグル。  無線インカム。  その姿を見る限り、真っ当な人間で無い事は見て分かる。ただし、彼らを傍らで見ている人間はいない。  密漁者とは、装備が違っている。どちらかと言えば、密漁者と言うよりスパイのような出で立ちであろうか。  その中に、渡辺 蓮次がいた。  蓮次がいるというだけで、この集団の目的は密漁では無く密輸という事になる。  それを知る者は、この日本中で限られた一部の者だが。 「船は、まだなのか?」 「渡辺さん。今回は、港じゃなく岸壁です。向こうの人間も、色々と慎重なんですよ」 「ここにしたのは、向こうだ。なら、時間を守るのは取り引きの常識だ」 「ですが、相手は中国人ですから」  蓮次を諭す男は、ある意味で過激な事を言う。受け取り方次第で、中国人が時間にルーズと聞こえる。
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