♯10 陸道と陸水

72/125
727人が本棚に入れています
本棚に追加
/863ページ
   彼の中での中国人がそうなだけで、蓮次もそれで納得はしない。  何よりこの場に居続ける事は、蓮次達にとって好ましくない事なのだ。  もしも、目撃されてしまったら。  警察が駆け付け、身柄確保となれば言い逃れが出来ず逮捕される。そうなれば、蓮次などは痛くない腹を探られる事になるだろう。 「ふっ、そうなったら何年の実刑を食らうかな……」  過去に遡れば、今やっている以上の事をいくつもやっている。  犯罪スレスレな事もあれば、立派に犯罪と言える事までだ。 「昔のツケが今にか……」  頭のどこかで覚悟をしていながらも、妻や産まれてくる子供の事を考えると、逮捕される訳にはいかないという気になる。  この取り引きが終われば、自由の身になれるだろうか。  それは、無理だろう。  優花とお腹の子供を人質に取られている以上、その状況を何とかしない限り解放などされない。  それを分かった上で、取り引きの役目を受けた。  蓮次は、先の見えないトンネルの中にいる気分だった。
/863ページ

最初のコメントを投稿しよう!