♯10 陸道と陸水

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   やがて、辺りにエンジン音が響き出す。  乗り合い漁船程度の小さな船は、東京湾内から出てきたようであったが、実際には中国からの密輸船だ。  どういった航路で、何日かけて来たのかは不明。  ただ、前回の取り引きの成功が、中国人たちを大胆にさせたのか、今回は色々と注文をつけてきたらしい。 「とにかく、急ぐんだ」  低く、重苦しい声で蓮次が指示を出す。  前回に引き続き、蓮次が積み荷に触れる事は無いが、岸壁上から吊り下げた様子からしつ、ひとつの箱の重量はかなりのもの。  中身は、何だろうか。  蓮次には、それが何なのか既に予測が出来ていた。  恐らくは拳銃だろう。  今日の昼間、一連の事件の流れなのか葛西で拳銃を使い、殺人を犯して犯人が自殺したとニュースで見た。  しかも、現場には多数の警察官がいたとか。  その事件で使われた銃は、前回の積み荷の中身だったのだろう。  そして今回は、その銃と同じものを大量に持ち込んだ。自分は、それに利用されている。  蓮次は、表情を歪めた。
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