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座敷の襖の向こうから、切迫した男の声が聞こえてきた。
伍島田が、表情を歪める。
「座敷には、来るなと言っておいただろうが」
「すいません。見間違いならいいのですが、店の前の通りに週刊紙の記者が数人いたようでして」
「何っ?」
「裏口に車を回しますので、本日のところはお帰りになられた方が」
「うっ、そっ、そうだな」
伍島田は取るものも取らず、沙菜に声をかける事もしないで、襖を開け放つと座敷を出ていった。
沙菜は、右手を動かし続けている。
秘書の姿は見えていないが、彼の目を通して彼が見ているものが見える気がした。
そう、これまでの事は沙菜が秘書を操り、行動させた事であった。
記者など、実際にはいない。
だが、沙菜はこれまで働いたクラブでの接客経験で、政治家が何を嫌がるかを知っていた。
それが、週刊紙の記者。
政治家にとって、スキャンダルは政治生命に関わり兼ねない事。
「テレビや新聞の記者なら、圧力をかけて握り潰すのは可能だ」
「えっ、そうなの?」
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