♯11 混沌の始まり

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   座敷の襖の向こうから、切迫した男の声が聞こえてきた。  伍島田が、表情を歪める。 「座敷には、来るなと言っておいただろうが」 「すいません。見間違いならいいのですが、店の前の通りに週刊紙の記者が数人いたようでして」 「何っ?」 「裏口に車を回しますので、本日のところはお帰りになられた方が」 「うっ、そっ、そうだな」  伍島田は取るものも取らず、沙菜に声をかける事もしないで、襖を開け放つと座敷を出ていった。  沙菜は、右手を動かし続けている。  秘書の姿は見えていないが、彼の目を通して彼が見ているものが見える気がした。  そう、これまでの事は沙菜が秘書を操り、行動させた事であった。  記者など、実際にはいない。  だが、沙菜はこれまで働いたクラブでの接客経験で、政治家が何を嫌がるかを知っていた。  それが、週刊紙の記者。  政治家にとって、スキャンダルは政治生命に関わり兼ねない事。 「テレビや新聞の記者なら、圧力をかけて握り潰すのは可能だ」 「えっ、そうなの?」
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