♯11 混沌の始まり

106/116
前へ
/863ページ
次へ
   料亭を出た瞬間、沙菜はそう言った。  それが心境の変化した後の、沙菜の気持ちでもあった。  料亭の前には、いつもの送迎車が止まっている。沙菜としては、車には乗らずに運転手に辞める意思だけ伝え、この場を去るつもりでいた。 「早く、乗って」 「あぁ、私は辞めるんで……」 「いいから、乗って。ちょっと、いや、かなり面倒な事になってるんだ」 「えっ、あの、ちょっと……」  いつも優しい運転手が、切羽詰まった顔で言ったかと思ったら、運転席から降りてきて沙菜を車に押し込んだ。  車内には、他に誰もいない。  状況が掴めず、混乱する沙菜などお構い無しに、車はタイヤに悲鳴をあげさせながら急発進した。  いつもなら、真っ直ぐに事務所に戻るところだが、車は赤坂を出てしばらく走行する。  そして、東京駅の前で停車した。 「あの、これって……」 「近々、うちの事務所に、警察の強制捜査が入るみたいなんだ。それで、一人でも女の子を逃がそうと思って」 「えっ、そうなの?」  思いもよらぬ事態だった。
/863ページ

最初のコメントを投稿しよう!

727人が本棚に入れています
本棚に追加