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料亭を出た瞬間、沙菜はそう言った。
それが心境の変化した後の、沙菜の気持ちでもあった。
料亭の前には、いつもの送迎車が止まっている。沙菜としては、車には乗らずに運転手に辞める意思だけ伝え、この場を去るつもりでいた。
「早く、乗って」
「あぁ、私は辞めるんで……」
「いいから、乗って。ちょっと、いや、かなり面倒な事になってるんだ」
「えっ、あの、ちょっと……」
いつも優しい運転手が、切羽詰まった顔で言ったかと思ったら、運転席から降りてきて沙菜を車に押し込んだ。
車内には、他に誰もいない。
状況が掴めず、混乱する沙菜などお構い無しに、車はタイヤに悲鳴をあげさせながら急発進した。
いつもなら、真っ直ぐに事務所に戻るところだが、車は赤坂を出てしばらく走行する。
そして、東京駅の前で停車した。
「あの、これって……」
「近々、うちの事務所に、警察の強制捜査が入るみたいなんだ。それで、一人でも女の子を逃がそうと思って」
「えっ、そうなの?」
思いもよらぬ事態だった。
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