88人が本棚に入れています
本棚に追加
/459ページ
ステンドグラスから、七色に彩られた月光が降り注いでいた。
「…凄いな…」
幽玄な空気すら漂わせる教会内を見渡して、アガットは感嘆の声を漏らした。
「綺麗だろう?いつか、お前に見せてやりたいと思ってたんだ」
傍らに立ったレオンが、そう言って微笑った。
今レオンとアガットは、十三年前に初めて出会ったバークスの教会を訪れていた。
幻想的な虹色の月明かりに包まれた夜の教会に、二人以外の人影はなかった。
「昔ここで、父さんは母さんにプロポーズしたんだ」
「そうなのか?」
レオンが落ち着いた口調で告げると、アガットは僅かに目を見張った。
「断られたらしいけどな」
「どうしてだ…?」
苦笑しつつレオンが言うと、アガットは首を傾げた。
「『娼婦が警察官の妻になれる訳ないでしょう?』って言われたそうだ」
答えたレオンは、ふと視線を落とした。
「それから間もなく母さんは死んだから…自分の死期を悟っていたのかもしれない」
「…そうか…」
呟くように零したレオンに何と言っていいか分からず、アガットはただ頷いてその頬を撫でた。
「…昔の話だ。それに、今はきっと二人一緒にいるはずだ」
アガットの手に自身の手を重ねて、静かに言ったレオンは微笑んだ。
「…そうだな」
そう言って微笑み返したアガットに、レオンは触れるだけのキスをした。
レオンはアガットの手を握ったままで、床に膝をついた。
最初のコメントを投稿しよう!