姿見

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徹「疲れた… 早く飯食って寝るか」 俺は都内の公立高校に通うごく普通の高校生。特異な才能といえば、口笛が異常に上手い事ぐらいしか思いつかんな。こんなの何の役に立つんだよ… そんなことを考えながら歩いていた学校の帰り道。 俺の家は少し郊外にあるから、この近くまで友達と一緒にくることはない。 どうせ今日の飯はいつものヤツだろう。お袋のヤツ、たまにはカレーだのシチューだの作ってくれよな… 徹「ただいまー」 母「あらおかえり、今日はシチュー作ったわよ。」 徹「マジかよ!? 荷物置いたらすぐ行くわ!」 まさか本当にシチューが出るとは… 人生何があるかわからんもんだな… 俺は嬉しくてついついカバンを放り投げてしまった。 すると運の悪いことに部屋に置いてあるデカイ姿見の足下に当たった。 あっと思うが否や、鏡が前につんのめって俺の目の前に落ちてきた! 徹「おぉっと!」 間一髪、徹は右手で鏡による俺の領地侵入を防衛することに成功した。 が、何か変だ。 それはすぐにわかった。 俺の右手は鏡の鏡面の中に入り込んでいる。 不思議なことに痛いとかの感覚は無い。なぜだろう? 今思うとなぜこの後にあんなことをしてしまったんだろうと自責する。 あろうことか俺はそのまま首を鏡の中に突っ込んだ。 …するとなんてこったい、鏡の向こうには全く同じ俺の部屋があるではないか。 俺は夢でも見ているのか? 頬をつねるが、鈍い痛みが神経を走り抜けるだけだ。 しかし、冷静になってよく見てみると、棚の中の漫画がすべてなくなっている。代わりに入っているのは何やら難しい数式が書いてある数学の参考書だろうか。 ここは俺の部屋じゃないのか? だが、部屋の作りから棚や机の位置に至るまで、俺の部屋にあまりにも似通っている。 不思議な思いにかられつつも首をひっこめると、そこにはいつもの自分の部屋があった。 棚にはいつもの漫画がギッシリと詰まっている。 徹は3回ほどまばたきしてから、鏡を元の場所に戻して、階下に降りていった。 これがこれから起こる出来事のはじまりだ。 まさかこんなことになるとは誰が予想しただろうか。 …いや、一人だけいるじゃないか、この事態を予想できる人が。 徹…。 そう、自分自身だ。
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