第2夕刻

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暫く見詰めていると、その物体も軽く上下するだけで動かない。 カシャンッ!! 私は意を決したようにペダルを強く踏み込み、更にその物体へ近付こうと自転車で走り出した。 息を切らしながら、何度も上を見て全力で追い掛ける。 近付く事も遠退く事も無い、その物体は一定の距離を保つように私の動きに付いて来た。 見失わないように、それでも何度か右へ左へ曲がりながら追い掛けるが、一向に縮まらない距離に焦りと苛立ちが募る。 その時。 ガッシャァーン!! 物凄い衝撃と共に、私の体は自転車から放り出された。 一瞬何が起きたのか理解出来ず、痛む体を起こして自転車を見ると、歩道の入り口に設置されているポールとポールの間に、鎖が張られているのが見える。 どうやらその鎖に突っ込んだみたいだ。 「…っ、…いた、たた…っ。」 軋むように痛む体を起こして、頭上を確認した。 光る物体は、相変わらず私を見下ろすようにそこにいる。 体を起こして、もう1度追い掛けようと思った時。 その物体は上下に大きく動き始めた。 「…っあ!!」 そして次の瞬間には、吸い込まれるように月の中へと消えて行ってしまい。 「…………。」 残された私は、ただ呆然と月を見上げてしまう。 「…ハァァ…。」 緊張と一緒に力が抜けていき、同時に全身に更なる痛みが走る。 「…何だったんだろう?」 スッキリしない気持ちを抱えながら、体を引きずり自転車を起こして再び空を見上げるが、そこには何も無い。 ただ大きな月が私を見下ろしているだけだった。
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