第1夕刻

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最初は黒いモヤモヤとした気配。 台所側から部屋へ入る為に、部屋の入口を開けた瞬間。 『あれ』はトイレの前から廊下を通り、物凄い速さで走って来る。 だから私は、引き戸を最小限に開け、体を滑り込ませて急いで引き戸を閉める。 閉めた引き戸の向こう、背中から感じる何とも言えない『嫌な気配』 引き戸を閉める度に、その戸1枚向こうに感じる『悪い者』の気配に、今日も間に合った、と安堵の溜め息を零す。 根拠は無いのだが『あれ』は部屋の中へ入ろうとしている事が分かった。 何時もギリギリ、スレスレの所、『あれ』の鼻先で戸を閉める事が出来ている。 その内、『あれ』は輪郭がハッキリして来て姿を現した。 黒み掛かった赤い肌、裸体に白いふんどし、四つん這いの腕は長く猿やゴリラのように手の指の後ろを使って走る。 長いボサボサの髪、吊り上がった黒目の無い目、左右に大きく裂けた口は笑っているようにも見える。 結局母親の3度目の再婚でこの家を出るまでの2年間、私は毎日『あれ』を部屋に入れない為に奮闘した。 結局『あれ』が何なのか分からないまま月日は流れ、15年が経った時。 思わぬ形で私は再び『あれ』を目にする事になった。
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