新月

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 2011年 11月30日 午後6時  十字軍とクリエイターの全面戦争が始まった。  戦争も同然。互いに殆どの戦力を投入しての消耗戦だった。幼い頃から戦闘訓練を行っていた十字軍が圧倒的に有利だと思われていたが、クリエイターの異能の才能はそれを補うどころか一枚上手をいっている部分があり、前日から行われていた戦闘は翌日になっても終わる気配を見せなかった。  兵力、という点だがクリエイターには第四席の“人食い花(ラフレシア)”という人食い花を生み出す男がおり、強靭な花の兵達を生み出せるという点で十字軍よりも劣っていた層の厚さを下から食い散らかす事態になっていた。  だがそれに対し、後半になり十字軍が追い上げてきた。青井伊織がその知能を使い人食い花達の行動パターンを読んできたのだ。こうして花たちは摘み取られていき人食い花を戦線離脱に追い込んだ。  しかしそれまでの十字軍の被害は尋常ではなく、幹部級の半分がその命を散らしていた。また攻めている十字軍に対し、守っているクリエイターは巧妙にトラップを張り、とにかく人を殺すことに特化した守備に徹しているように見せかけた攻撃的な戦法で優位に立たんとしていた。  だが、クリエイターも幹部は4分の1しかやられていないも、信者と呼ばれる下級兵士達の被害は十字軍の下級兵士の2倍を上回っており、手数で言えば十字軍が優勢だった。  勝負はこれから。  だがタイムリミットは着々と近づいている。  富士山の迷走必死の樹海の中で。  終盤戦は、始まっていた。 「さーて喋ってもらおうかクリエイター第5席、日越智卓(ひおち すぐる)さんよぉ!」  一つの勝負に、決着が着いていた。  日越智卓――“顔もじり(フェイスブック)”の能力者は自分の息を吹きかけ、当たった部分が皮膚ならば触覚神経、目ならば視神経など、五感を狂わすことの出来る能力者。  近距離戦法もクリエイターきってのこの男に勝利した一人の少年。  長めの黒髪に白いヘアバンドをした、“月天子(ムーンエンジェル)”の少年は目をぎらつかせて歯をむき出しにし、自らが浮かべていた卓へ自白剤を口に念導力で運ぶ。
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