一夜 くろぅばぁりぃふ

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霧の深い夜だった。 BAR【せぶん】の重厚なドアから、ひとりの老紳士が入って来た。仕立ての良い背広に中折れ帽、コートも皺の無い上品な身なりである。 「いらっしゃいませ」 カウンターの中で、白地に紫の矢絣柄の着物、その上に白いエプロンをつけた若い女が、軽く頭を下げた。男は帽子とコートを脱ぐと、カウンターのほぼ中央の席に腰かけ、ちょうど良いタイミングで差し出されたおしぼりで、手を拭いていた。
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