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広い園庭があった。
周囲を城壁に囲まれ、檻の中で育まれた広い花たち。
それらは色とりどりの色彩が月影の光を浴びて、薄く柔らかく光っている。そんな空間に城壁に阻まれた風は壁に当たっては他の壁のほうに向かう。それを何度も繰り返して周辺を漂う。その風は柔らかく花たちを靡かせる。
その園庭の中央に佇む一つの影。
それは可憐な少女だった。
透き通るようなシアン色の長い髪、純白のような肌、それを隠す水色のドレス。男なら一度なら振り向くのであろうその容姿、その姿を一言で言い表すならば、清らか。
少女の瞳は静かに白い花を見つめていた。
けど、瞳には光がなかった。
実際に透き通るような美しい瞳には光は通っている。けれど少女の瞳には哀しいという感情が伺えられるほど沈んでいた。
少女は白い花をただじっと見つめる。
白い花が少女そのものを映しているのだと少女は思うしかなかった。
自分の存在は何色にも染められない。空白の存在。
人が憧れはするが、なろうとは思わない存在。
死の付き人。
この花の花言葉。
葬儀の際に必ず送られる花。不幸の花としか言われない、哀しき花。
それが此処で咲いているのは、王族として戦場で逝ってしまった者たちへ、いつでもこの真っ白な花を送り届けようとする思いからこうして咲いている。
少女はこの花たちに囲まれながら、檻に閉じ込まれている。少女の存在はいつも死が付きまとっているから、
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