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◆◆◆
燃えている。
何もかもが、燃えている。
母も、家も、村も、山も、全てが燃えている。
しかし、ただ独り。
焔に焼かれながらも燃える事なく無傷で生存している幼子がいた。
幼子は幼き日の俺だった。
2歳の俺だ。
この光景が俺の中で最古の記憶であるからこそ、それが分かった。
と、同時にこれが夢である事も。
焔が割れ、黒衣を纏う小柄な人物が俺の前に歩み寄る。
「白虎の流れを汲む虎族に紅き虎族の子。
成る程、お前が窮奇(きゅうき)の忘れ形見か。
確かに、肩の付け根より小さいが翼が生えているな」
その言葉に、とっさに翼を隠すよう肩に手を回す幼い俺。
その表情には未知のものに対する恐怖がありありと見てとれた。
しかし、目の前の黒衣の者は、そんな俺などお構いなしに土足で心の中に踏み込む。
「その翼と紅き毛皮で出生など直ぐに知れる。
幼いとはいえ、お前も分かっているはずだ。
お前の母も、お前の家も、この村も、この山も。
全て、燃えてしまったのはお前が原因だと」
燃え滲む視界の中、黒衣の者は俺に手を差し伸べた。
「私と来い!
お前にその力を使役する術と、その使い道を与えてやろう」
俺は気が付けば、その者の手を取っていた。
遠い昔の記憶。
だからこそ、その時。
何を思い、何を考え、何故、その手を取るにいたたったのかは定かではないが。
「我が名は造物主(ライフメイカー)。
お前の主になる者だ」
その時、俺にとってその手は確かに救いに見えたのだ。
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