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横町通の市の空気は冷たく耳元を通り過ぎていくのに、見上げた空は熱っぽくゆらめいていた。
湯気を発する大人たちの首が狭めた空を三羽の小鳥が通り過ぎていく。大輔はその鳥たちを、この前読んだ「カラーでわかる野鳥図鑑」で見つけていた気がしたが、記憶の中の名前を全て並べてみても、一つとして腑に落ちるものはなかった。
こんなところに来るのではなかった。つまらない。市場の人ごみは滞ったままでちっとも進みそうになかった。目当てにしている「やっさん」の店まで、あとどれくらい待たねばならないのかは見当がつかず、たどり着く前におつかいの内容を忘れてしまいそうだった。
すずしろ、なずな、ほとけのざ……
母親に教えてもらった語呂合わせを口ずさみながら大輔には今にも泣きそうになっていた。
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