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すずしろ、なずな、ほとけのざ……と、ひらがなを音にできたその時に、本当なら、母は褒めてくれるはずだったのだ。正月生まれで人より遅く六歳になった大輔は、それでも他の子より早くひらがなを書けるようになり、知らない文や単語でも漢字でなければすらすら読めた。それが大輔の自慢の一つで、見たことのない言葉の列に出会うたび、母の目の前で読み上げる。母も母でそれを楽しみにしていて、何かを持った大輔がそわそわしながら近寄ってくるのをにこにこしながら迎えるのだった。そして、ひととおり大輔が読み終えると、すごいねすごいね、と言いながら彼の頭を撫でるのだ。大輔はそれが嬉しくて飯を食うのと同じように、毎日毎日新しい文字列を探してくるのだった。
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