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だから、すずしろ、なずな、ほとけのざ……と母親の書いたメモを読んだその時、母親が褒めてしまう前に、こんなのふつうだけど、と言ってしまったのだ。ふつうの意味も知らないままに。
母はびっくりした顔になり、それから眉をくもらせて、
そうだよねえ、ふつうだよねえ。ごめんね。
と言った。
大輔は謝られる理由が分からずにきょとんとし、同時にひどく落胆した。母が褒めると思っていたのだ。友達の隆人がよく言う「べつにふつう」は彼の知りうる言葉の中で一番大人びた言いまわしだった。従兄に劣った自分を消し去る強がりが「ふつう」という言葉の全てだった。それなのに母は悲しそうな顔で黙ってしまい、急にこわばった家の空気が大輔の柔らかい肌を刺した。
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