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予想しなかった状況にあせり始めた大輔は、どうにか取り直そうとして、七草のお使いをかってでた。七草のメモはそれが入り用だからと用意されたもので、その申し出に不自然はなかったが、母は心配そうな顔をした。
「俺、もう六歳だよ、いいでしょ」
と、彼が言うと、母親は
でも、日曜日だから、
と呟き、なおしぶった。
日曜日だから、なんだというのか。大輔にはやはり分からなかった。絶対に行ってやると思った。彼にとって日曜は等しい曜日の一つでしかなかったし、ここで母の賞賛を得られなければ、もうどうにもならないという気になっていた。
どうにかこうにか母を押し切り、件の七草のメモをもらって、もしものときの語呂合わせも教えられた。これなら、しくじるわけがない。そう高をくくっていた大輔は、市場の入り口に立ち、その蠢く人の塊を見た瞬間、その自信が塵のように小さくなっていくのを感じた。目当ての品はその通りに確かにあって、目的の店は見知ったところであるのに、自分が途方もないことに身を投じようとしているという予感が、言葉としての形を持たずに、ぬるりと心を舐めた気がした。しかし、もう戻れない。このまま戻ることは敗北だった。従兄のいる家に、手ぶらでは戻れなかった。
わざとらしく思えるほどに大きく息を吸い込んで、大輔は人の海の中へと潜って行った。
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