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ボーっとしていたのか、私が前を向いた時には、あのおじさんが私に微笑みかけていた。
「フロントでございます」
「あ、すいません……。
ありがとうございました」
「どうぞ、ごゆっくりとお過ごしください」
丁寧に頭を下げて、彼は去っていった。
私も軽く会釈をし、それからフロントに向き直る。
そして、そのフロント係のお姉さんが、モデル体型の美人さんだった。
満面の笑みを浮かべ、デパートのアナウンスのような声で私に話しかける。
「いかがなさいましたか?」
「あ、あの、チャットウィンさんに呼ばれてきているのですが……」
「お約束でしょうか」
「はい、お昼にフロントに声をかけてくれと言われています」
「お名前をお願いします」
「守野、薫です」
「確認いたします。
少々お待ちください」
さすがに、すぐには通してもらえないらしい。
それはそうだろう。
フロントのお姉さんは、相変わらずの笑顔のまま一礼して去っていった。
それから三分後、彼女がフロントに戻ってこない。
おかしい、と思い始めた頃、背後から声をかけられ、私は飛び上がってしまった。
そこに立っていたのは、ダークスーツの男性一人、それから、ホテルの制服を着たお姉さんが一人。
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