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オープニング
バチカン宮殿の広場
その中央に造られた噴水に腰掛けた少女を、ロベルトは興味深げに離れた場所から観察していた
ただ誰かを待っていると言うには、少女の行動が不可解だったからだ
彼女はロベルトより後に広場に入り、真っ直ぐ噴水に腰掛けた
それだけならば誰かを待っているだけだと思えるが、かれこれ彼女は2時間程そこに座ったままなのである
その間携帯を弄る訳でもなく、かといって手持ちぶさたにして居る訳でもなく
ただ、眼鏡の奥の視線をきょろりきょろりと空中に漂わせているのである
その視線がまた妙なもので、人を見ている訳でもなければ景色を見ている訳でもない
何か、自分には見えないものを見ているとしか思えないのである
(…声を、掛けてみるとするかな)
ゆっくりと近づいていく
遠目から見たのでは東洋人らしいとしか解らなかったが、近づいてみると実に可愛らしく美しい少女である
(東洋人と……こちらの血が混ざっているのか…?)
絹糸の様に艶やかな黒髪、日本人にしては白い肌
そして何より彼女が純粋な日本人ではないことを示すものがあった
(綺麗な紅い瞳をしている…オッドアイとは珍しいな…)
黒曜石の右目と酸化した赤色の瞳
くりっとした可愛らしい瞳が、その色彩と黒縁眼鏡の性でひどくミステリアスに映る
「君」
その性で思わずラテン語で話しかけてしまった
慌ててイタリア語で話そうとすると、思いがけずラテン語が帰ってきた
「何か御用?お兄さん」
「驚いたな、ラテン語が話せるのかい?」
「いちおーカソリックだよ」
「そうか。所で君はさっきから何を見てるんだい?」
「この場所に居る、妖精とか幽霊さん達」
「へぇ。何て言ってるんだ?」
「この場所は腐敗してるって」
思わず目を見開く
少女はにっこりと笑う
「成る程。しかし、死んでからも世の中を憂いて下さるとはね」
「……珍しいね。信じるんだ。私の話」
「……嘘だったのかな?」
「本当」
「信じるよ。僕は」
その言葉にだろう。少女は一瞬無表情に成った
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