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遊び人の萩尾は「ガルガンチュアとパンタグリュエル」の本を読んで残った。三ヶ月のような顔をした、竹本の彼女、ウェートレスが
「萩尾さん、あなたはいいわねえ、食う心配もなく、あなたは作家を目指してるんだから今度、習作でも読まして。」と空になったコップに、冷たい水を注ぎ足して言った。
僕は小林さんのこごとを聞き、ファイブスターの看板を持っていると、峰村という画家の卵がチラシを配りながら近づいてきて、
「五百円貸してくれよ。夜、飯代がないんだ。立ち食いソバでも食うかなと思ってね。」と言ってきた。僕は金がなかったので、友達から借りてくる、それを貸すよ、今日のうちに返してくれよ、と言って、大井果物屋の角で、牛のぬいぐるみを着て呼び込みをしていたジャックに、友達が金に困っているんだ、五百円貸してくれないか、といって五百円借り、峰村にそれを貸した。三時間後、彼はその貸した金を返しにきた。彼は何度も芸大を失敗していた。今度、俺の肖像画を描いてくれないか、とそれを受け取り僕は言った。峰村は、いいとも、俺のアトリエへ来いよ、といってチラシ配りに戻っていった。僕は五百円を持ってジャックの所へ返しに行って、悪い事したな、どうもありがとう、というと、彼はびっくりした顔で、コーヒーおごるよ、と言った。彼はどうも、僕に借金を踏み倒されるのを覚悟した上で、金を潔よく、全共闘の同志のように貸したみたいだ。僕はそれを辞し、君も彼女を養っているんだから大変だろう、稼いだ金は自分で使うもんだよ、そんなお世話にはなっていられない、と言った。そんなに僕は自分に甘くない。ジャックは今度、うちに遊びに来いよ、と金を受け取った。アパートは梅が丘にある。いってみるか、大学中退の彼に、僕はちょっと関心を持っていたので。僕らは一種のコミューンだった。カルティエ・ラタンみたいに。
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