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「どうだ、これから木谷を脅しに行かないか。」
「そうだな、それもいいな。」と萩尾は拳の節を鳴らした。そして井の頭線下北沢にある、木谷のアパートへ二人で出かけた。木谷はまだ寝ていた。
「何だよ、お前らこんな時間に。俺はまだ眠いんだ。帰ってくれ。」と目を擦りながらドアを閉めた。僕らは、
「まあ、いいから入れてくれよ。邪魔はしないからよ、なあいいだろ。ほら、お土産にトンガリコーンを買ってきたんだ。」
僕らは、お邪魔します、といって木谷の部屋へ入った。木谷の部屋は整然としていた。本棚があり、ちゃんと書物がそこに収まり、洋服ダンスもあり、机とテーブルとソファとベットがあった。冷蔵庫まであった。僕らはソファに座ってかしこまり、
「いや、何も気を使わんでもいい、何も出さなくてもいい、俺たちすぐ帰るからよ。」
木谷は冷蔵庫からコカ・コーラを3本出し、栓を抜いて、
「ほらよ。」とテーブルの上へ置いた。僕らは恐縮して、
「す、すぐ帰るよ、す、すまんな。いやね、今度の日曜、一緒に、江ノ島に遊びにでも行かないかと思ってね。ど、どうだい。」と言った。
「お前ら、そんなに気を使わんでもいいんだぞ。ここは俺の部屋なんだから。江ノ島か、悪くないな。」
「じゃぁ、朝、八時、ハチ公前で。」と言って、そそくさと、彼の部屋を二人で出た。プーンとハーブの香りがした。
僕は、
「らんぶるに行こうか?」と萩尾に言った。萩尾は、
「それもいいな。」とついてきた。渋谷で電車を降り、中華飯店の路地を入り、喫茶店に入った。二人はホット・コーヒーをたのみ、
「えらい気を使わせ、迷惑かけちゃったな。江ノ島なんて無理、言ったかな。」
「そうだな。」と二人で照れて笑った。熱いモカ・ブレンドを飲んでいると、赤いシャツを着たソノ子が一人で入ってきて、僕たちを見つけた。僕らは、
「やあ、今日、遅番? 」と声をかけた。ソノ子は、
「萩尾君、この間頼んでおいた、八女茶まだ? 」と萩尾に暖かく詰め寄った。萩尾は、
「い、いや、おふくろに電話しておいたんだが、まだなんだ。もう少し待ってくれ。」僕はソノ子に、
「今度の日曜、よかったら休みとって、一緒に江ノ島、行かないか。」と誘った。ソノ子は、
「萩尾君行くんなら、いいわよ。」
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