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「あの、私……具合が少し……」
飛田の隣に座っていた大人しそうな女の子が遠慮がちに申し出る。
彼女の一言がきっかけで、全員少しだけ冷静さを取り戻したようだ。あちこちから、「私も」とか「そういえばフラフラするな」と言った声があがる。
「そうですね……一応全員診察したほうがいいでしょう。皆さんは座っていてください。私が回りますので。」
そう言って飛田は立ち上がり、一人一人順番に下まぶたを見たり脈拍などを診察していく。同時に痺れや吐き気、食欲の有無なども聞いていく。
特に異常があるような者はいなかったようだ。飛田は自分のソファーに戻って言った。
「多少ふらつきが残っている方もいらっしゃるんですが、しばらくすれば治まると思います。……ところで、皆さん初対面同士だとばかり思ったのですが、お二人はお知り合いだったんですか?」
飛田は唯一知り合いらしい会話をしていた男女に問い掛けるように話し掛けた。
「あ、あの、私たち、……兄弟なんです。」
女性の方が答えた。
「こいつが妹の雫で、俺が兄の誠です。工藤誠。二人とも大学三年生です。」
男性の方が自己紹介をする。
「あ、ということは双子のご兄弟ですか……」
飛田が言い、他の者も「へぇ」と頷く。続けて飛田が言う。
「名前が分からないと不便なので、他の皆さんも簡単に自己紹介してもらっていいですか?」
「……じゃあ僕から。」
そう言って立ち上がったのは【先読みくん】だった。
「猪野翔真です。高二です。」
【先読みくん】こと猪野は、俺と同い年だったようだ。猪野がこちらを見て座ったので、次は自然と俺の番になった。
軽く会釈しながら立ち上がる。
「乾賢太です。同じく高校二年生です、よろしく。」
俺が座った後は反時計周りに自己紹介が続いていく。
全員の自己紹介が終わった時、俺はこの部屋の空気がさっきと少しだけ変わっているような気がした。
それは深い海の底のように暗く、まるで、尖ったナイフのような鋭さと氷のような冷たさを含んでいた――
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