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《猪野 翔真の視点》
(まだ夢の中、か……)
まどろんだ目に映ったのは、見覚えのない薄暗い部屋だった。
まだ夢を見ているんだろうと思った僕は、もう一度瞼を強く閉じ、パッと開ける。
さっきと変わらない景色。どうやら夢ではないらしい。
僕はいつの間にか知らない屋敷の中に迷い込んでしまったようだ。
立ち上がってみると、自分の傍に他にも何人か人が寝ていることに気がつく。
僕が一番最初に目が覚めたのか、それとも他にも起きている者がいて、すでにこの部屋から出て行ってしまったのか――
いずれにしても、僕らは何者かにここに集められたに違いない。しかもこの人数だ、集団、あるいは大きな組織かもしれない。
外に連絡を取ろうにもこの部屋に電話機は見当たらなかった。
自分の携帯もないようだ。
とりあえずこの部屋から出てみようとドアに近づいてみる。が、そこにはあるべきはずの物が付いていなかった。
念のため思い切り押してみるがびくともしない。
(取っ手がなくちゃ開かないか……)
そんなことを考えていると、後ろで誰かが起きあがる気配がした。
「……ここは……」
振り返ってみると髪の長い女性が起き上がるのが見えた。僕が誘拐犯だと勘違いされてしまうと困るので、とりあえずこちらから先に話し掛けておくことにした。
「大丈夫?僕も今起きたばっかり。」
女性がハッとこちらに振り向く。しかし、すぐに自分の周りの寝ている人達に気がつく。
「この人たちは……」
「わからないけど集団誘拐かもしれないね。僕たち閉じ込められてるみたいだし。このドア、開かないんだ。」
僕はそう言って手を何回か握る仕草を見せ、取っ手がないということをアピールする。
「えっ……そんな……」
女性は驚きの表情になったが、すぐに何か思い付いて後ろを振り返った。
立ち上がってカーテンが少し開いている窓に近づき、レースのカーテン越しに外の様子を伺っている。
「格子が……」
女性が呟く。
「窓からも逃げられない、か。」
予想したとおりだ。
「ええ……でも他にも出入りできるところがないか探しましょう。」
女性は一瞬気落ちしたように見えたが、すぐに立ち直った。
僕より年上のしっかりもののお姉さんといった感じだ。
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