男と猫

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  僕は家へ帰り、少女のことを考えた。「うん、たぶん…。」そして、仕事の準備をした。僕はイラストレーターだ。コンピューターのグラフィックを使って、その日の依頼された、ポスターの絵柄を頭から捻くり出し三時にはあらかた済ませた。暇になったので、街のギャラリーへ出かけることにした。今週は今、売れっ子のイラストレーターの展示があるはずだった。僕は十分もするとそのギャラリーへ着いた。一通りそれらの作品に目をやり、「ふうむ、確かに。」しかし僕は一点の気に入った絵を見出すことはなかった。   翌日、朝早く、テリヤ君を連れて広場に出かけた。あの少女はもうすでに広場に来ていた。僕は子犬の紐を少女に渡し「これやるよ。」と言った。その瞬間、太陽が十五度急に、傾いた気がした。影が異常に長くなった。茂みからつぐみが数羽、激しい音を立てて飛び立った。少女は振り向くと「ありがとう。」と言って、犬の紐を受け取った。僕は驚いた。少女の顔のケロイドが見当たらない。僕は二、三度、首を振ってさらに念入りに目を手の甲で数回擦り、さらに念入りに逆立ちでもしようかとしたが、さすがにそれはしなかった。そして、正確に彼女の顔に見入った。期待は裏切られた。少女の頬にはやはりひきつったようなちいさな火傷の跡が見られた。僕は言った。「大丈夫、心配することない。」少女は、テリヤ君を連れて広場を歩き回った。僕は心の中で「大丈夫」と呟いた。                     (了)
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