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「あなたは、以前、私にこう言ったことがあったわね。絶対死ぬまで一緒だと。私はそれを真に受けて結婚したのだけれども、いつも夜中に起きだして外出していたわよね。私はそれは不思議ではなかったの。何か切羽詰った出かけなくてはいけないことだと理解してた。でも、残った私は一人で一体、何をしてくるのだろうと考えると、もう眠れなかった。そして、ある夜、いつものようにあなたが夜起きだして外に出かけようとした時、私は後をつけようと決心したの。何かを見極めようとしたの。」
僕はそこまで読んで、ふむ、ここまではありふれた夫婦の生活だなと思い、ペラペラとあと何枚あるのかなと枚数を数えてみた。あと5枚はありそうだった。僕は濡れたコースターからアイスコーヒーのグラスを剥がし口の渇きを潤し、彼の顔を窺った。彼はまだしきりにハンカチで顔の汗を拭い、せっかちに何度もコーヒーのストローに口を運んでいた。僕が手紙を読むのをちっとも気にしてないように。
僕は定められたように、決定的に、手紙に目を落とし続きを読んだ。
「私はあなたがドアを閉めたすぐ後、そっと身を潜め、後をつけました。階段を足音を立てずに、気付かれないようになるべく暗がりを進みました。あなたは外に出るとゆっくりと公園の方へ歩いて行きました。街路灯があなたの広い背中を照らし、あなたが何も疑っていないことを示していることを知りました。あなたは当然、いつもの当たり前の自分の人生には欠かせない、ありふれた自信を漲らせていました。私は木立の影を伝い、あなたが歩みを止めるのを待ちました。あなたは公園のベンチに座ると口笛を吹き何かを呼んでいる様子でした。すると生垣の影から数匹の猫が集まってくるではないですか。あなたはその一匹一匹の頭を撫ぜ、ポケットからチョコレートを取り出し、与えるではありませんか。」
僕はふむ、これは少々、異常ではないが、まあ結婚している夫の普通の行動にしては並なことではない。何が彼をそうさせているのかに関心を持った。そして、何度かテーブルを指でトントンと叩き、彼に尋ねてみた。
「奥さんとは性生活で満足なされていたのでしょうか?」
彼は当たり前のようになんのためらいもなく、
「勿論。」と答えた。僕は彼に失礼なことを聞いた、気にしないでくれとうなずき、続きを読んだ。
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