男と猫

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僕は広場に着き、犬の綱を解いた。テリヤ君は原っぱを駆け回り、くんくんそこらじゅうの臭いを嗅ぎまくった。草はおもにクローバーだった。僕はその辺にあった小石に腰掛、様子を眺めていた。すると、テリヤ君が動きを止めた。彼の前には九歳くらいの少女がシロツメクサを摘んでいる姿があった。僕はテリヤ君が悪さをしないようにそこへ行った。少女は僕の近づくのに気が付くと顔を上げ立ち上がった。手にはしっかりと花束が握られていた。少女の顔を見ると頬に小さなケロイドがあった。僕はなるべくそれに眼をやらないように犬の首輪に綱をかけた。少女は「醜い?」と僕に言った。僕はそれに答えて「いいや、そんなことはないよ。」と言い「どうしたの?」と声をかけた。少女は「火遊びしたの、それで。」「ふううん。それで?」「もう、元には直らないの。」僕は言った。「そんなことないよ。きっと元に戻るよ。僕が保障する。」少女はシロツメクサノの花輪を編んでテリヤ君の首にかけた。そして、きっと口を結んで「それって本当?」「ああ、本当さ。」彼女は少し安心したかのように、かすかに微笑んだ。「私もこんな犬、欲しいな。」僕は落ち着いてそれもきっぱりと「明日やるよ。」と応じた。少女は小さな円をゆっくり一歩一歩確かめるように歩き、「じゃあ、また明日。」と言って小道を歩いて去っていった。
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