追われる

2/2
前へ
/9ページ
次へ
自分の呼吸音。 スニーカーと革靴の足音。 銃声。 近くの壁で飛び散る火花。 俺は逃げている。 背後から拳銃を持った黒服の男が追ってきているから。 黒服の男が誰で、何故俺が追われているのかもわからないが、とりあえず逃げるしかない。 迷路のような入り組んだ道を、俺は全力で走り、背後の男は優雅に歩いている。 なのに、巻けない。 銃声が響き、右肩に鋭い痛みが走る。 どうやら弾が掠ったらしい。 俺は目に付いた脇道へと駆け込んだ。 喉からヒューヒューという音が聞こえ始める。 一体、どれだけの距離をどれだけの時間をかけて逃げているのか。 それすらも分からない。 カツー…ン………カツーン… 捕まったら死ぬ。 絶対死ぬ。 そう思い、ひた走る。 しかし。 再び銃声。 さっきとは比べ物にならない激痛が右足を襲った。 カツーン……カツ…ン…カツン… 倒れ込む。 もう走るどころか立つことすらままならない痛みに呻くしかない。 それでも何とか逃れようと床を這いつくばっていると、 カツッ 止まった足音。 瞬間、獣の咆哮のような音が辺りに響きわたった。 それが自分の声であることに気がつくまで、少し時間がかかった。 撃ち抜かれた右足を、固い革靴で踏まれている。 その想像を絶する痛みで意識が朦朧としたせいだ。 いっそそのまま気絶させて欲しいと思ったが、現実は残酷だった。 黒服の男は俺の脇腹を蹴って仰向けにさせた。 脇腹に走った新たな痛みで意識が強制的に覚醒させられる。 薄ら笑いを浮かべた黒服の男は、俺に馬乗りになった。 鈍く光る拳銃が左胸に突きつけられる。そして。 最期の銃声。 痛みで呼吸が出来ない。 体温が急激に下がってゆく。 血液が吸い取られていくかのようだ。 ああ、死ぬんだ、俺。 そう思った。 …まあ、死んでないんだけど。実際は。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加