無題

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夢を見た。 昔飼っていた猫が出てきた。 ヤツは私の顔を、ただジーッと見つめている。 私が 「久しぶり。元気にしてた?」 と声をかけると、ニャンとひと声だけ鳴き、背を向けた。 「もう、行っちゃうの?」 そう声をかけたが、猫に人語が通じる訳がないと気が付く。 ヤツはどんどん遠ざかってゆく。 「待って!」 慌てて走り出すが、全く追いつけない。 走る。走る。走る。でも追いつけない。 息が切れる。 膝が笑い始めた。 これでもかと言わんばかりに手を伸ばす。 もう少し、あと、もう少し…! …と、いうところで、目が覚めた。 「大丈夫?」 顔をあげると、彼が心配そうに立っていた。 「…涙。」 「え?」 すっと、彼の指先が私の頬に触れる。 「悲しい夢でも見た?」 ポロリと、新たな涙が零れた。 ポロポロと、止めどなく溢れだしたそれは、私の視界を歪める。 「…大丈夫じゃ、なさそうだね。」 そっと、彼は私を抱きしめてくれた。 彼は、温かかった。 生きているのだから当たり前だ。 そう思ったらまた泣けてきた。 彼の温もりに甘え、思いっきり泣いた。
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