彼は私の許婚!!

前へ……――。

とても穏やかで、優しい声。

その声が、ゆっくりと続けられていく。

「３年前に、両親が死んだ時……俺は仕事を優先させたんだ」

「え……？」

「二人はダメかもしれない。と、知っていた。
でもあの時、俺は今までで一番大きな仕事を抱えてて、あの日は相手側との契約が決まるかどうかの日だったんだ」

……事故のことや、二人の状態を知りながらも、浩介さんは仕事を優先させたんだ……。

「上司は病院へ行くよう言ってくれたけど、でも俺は『自分のせいで仕事を潰したくない』と思って、仕事を続けたんだ」

そう言ったあと、浩介さんは私から離れて……机の引き出しからタバコを取り出した。
それを口にくわえて火をつけ、僅かに息を吐く。

「仕事は上手くいったけど、二人の最期を看取ることは出来なかった。
すぐに駆けつけていれば間に合ったかもしれないけど、俺は行かなかったんだ。
そして、仕事を終えて病院へ行った時……先に到着していた高村さん――キミのお父さんに言われたんだ。
『仕事はいくらでもあるけど、血の繋がった親はこの世に二人しか居ないんだ』とね」

「……」

「……まぁ、あの時と状況は違うけどさ、でも、高村さんの言葉は事実なんだよ。
血の繋がった親は、この世に二人しか居ない。 だから、親は大切にしなくちゃいけないんだ」