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……そんな風に言われたら、もう言葉は出せなかった。
血の繋がった親は、この世に二人しか居ない……。
それは事実であり、浩介さんが大切に思っているもの。
そして、私たちの距離を変えるには十分な言葉だった。
私と浩介さんは、離れなくちゃいけない。
日本とアメリカ、別々の地で暮らしていかなくちゃいけないんだ……。
それを思った瞬間に、涙が溢れ出してきた。
ずっと一緒に居られると思っていたのに、私たちはもう、一緒には居られない……。
「葉月」
タバコを携帯灰皿に押し付けたあと、浩介さんは私のところに戻ってきた。
そしてそのまま、私を抱き寄せる。
「落ち着いて、よく聞いて。
俺も、葉月と離れたくない。 ずっとそばに居たいと想ってる。
……だけどね、どうしても変えられないこともあるんだ。
だから今は、それを受け入れて生きていくしかない。 大丈夫、離れていても、俺はずっと葉月を想ってる」
ギュッと私の体を抱き締めた浩介さんの声は、涙を堪えているような、そんな息苦しさを感じさせるものだった。
その苦しそうな呼吸を整えたあと、浩介さんは私を見る。
「これから先は、簡単に会える距離じゃないけれど……それでも俺と葉月の心は、繋がってるだろう?」
私の涙をそっと拭う浩介さんは、いつもと同じ優しい顔で笑っていた。
「高村さんの仕事の都合上、最低でも5年はアメリカに居ると思う。
……でもさ、5年経てば、葉月はもう未成年じゃないだろう? 誰にも邪魔されず、自分の道を真っ直ぐに進むことが出来るんだよ」
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