呼ぶ女

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男の口から聞く異国の話は、それが最後だった。 やがて女は高校を卒業すると、隣の県に就職先を見つけ、実家を離れた。 広告会社の事務員。小さくても小綺麗なアパートを借りて、新しい友人もたくさん出来ると、女の足は次第に実家から遠退いた。 元気でやっているか?と女を心配して、実家の両親や、嫁ぎ先の姉から、時々は電話がかかってきた。そして時折、男の乗る船が航海を終えて、港に戻ってきているという話を耳にした。             青い魚は、連れて来ていた。 男に会うことはなくとも、女はアパートの一室で、青い魚を見るたびに男のことを思い出していた。その習慣は、以前と少しも変わらなかった。 男がいつか連れていくと言ってくれた、遥か遠い海の話を時折思い出しながら、女は、男の無事な航海を願っていた。
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