待つ女

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そんな静かで何もないような毎日を一日一日やり過ごして女は生きていた。それでも、盆や正月が近くなると、女の周りは突然賑やかになる。 遠く離れた町に住む、子や孫、曾孫達が、女に会いに泊まり掛けで訪ねてくるのである。そうなると、普段は広すぎると思う家の中が、急に狭くなったように感じられた。今年の盆も、また大勢の人が集まり、女の家は賑わった。 ばあさん、まだまだ長生きしてくれよ、と子や孫達に言われると、女はやはり嬉しかった。嬉しかったが、皺の多いその手を目の前でかざして横に振りながら、いやいや、もうたくさんだ、充分に生きた、と笑いながら答えた。 末の娘孫が、ついこの前生まれたばかりの赤ん坊に乳を与えながら、 「お祖母ちゃんが存在しなければ、此処に居る私たちは、皆誰もこの世に生まれて来なかったわ。……ありがとう」 と言った時は、女の胸に熱いものが込み上げてきた。自分は、生まれてきて、この先も生きていていいのだと、思わせてくれるような言葉だった。 そして、そんな賑やかな時は、いつも瞬く間に過ぎた。盆が終わり、夫と息子の位牌が置かれている仏壇に供え物が置ききれなくなる頃、女の周りを囲んでいた子や孫達は、ひとり、またひとりとそれぞれが持つ生活へと帰っていった。そして、また広すぎる家に、女と嫁だけが残った。
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