待つ女

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盆が終わると、毎年村で小さな祭りが行なわれる。その祭りも過ぎてしまうと、女の座る縁側にも秋風が吹いて来るようになった。庭先には菊の花が咲き誇り、赤とんぼが姿をみせた。 秋の心地よい陽だまりの中、女はうたたねをすることが多くなった。その姿を、農作業から帰ってきた嫁に見られ、女はまた嫁に叱られる。 お祖母さんが風邪をひいたら、親類たちに注意されるのは私なんだから、と眉間に深い皺をつくって嫁は怒鳴った。嫁の険しい顔を見ながら、ああ、この嫁に気苦労をかけさせて申し訳ない、と女は思った。 以来、女は縁側には出ず、仏間の窓ガラス越しから庭を眺めて過ごした。庭先に、自分を訪ねてくる人影が見えないだろうかと待ちながら、じっと静かな時に身を置いた。そして、すっかり遠くなってしまった耳をそばたてながら、時々うたたねをした。
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