カミングアウト

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「大丈夫?」 口の右端を吊り上げて聞くと、女は目を丸くしたままコクリと一度頷いた。 「あのさ、俺、バイなんだ」 倒れはしなかったものの、瞬きをしない瞳はずっと俺を見つめている。 「あー……ほぼ、ホモみたいなもんで。というより、ホモ?」 「……」 「……」 本当に口を開かない。こっちまでフリーズしそうになる。 ……ひょっとして、今までのがごく一部で、これが一般的な反応なの? いや、違うでしょ。 なんでもいいわ。いいから早く、この場から去ってしまえ。 「いいんですか?」 「え?」 やっとパタパタと瞬きを再開する女は、弱々しい声で何か言った。 「い、いいんですか? 私で」 フリーズ、感染。 今度は俺が表情を固める。 この人、なに言ってんの。 え、普通は戸惑うんだろ? 引くんだろ? この反応が普通――? いや、んな訳ないって。 「まさか、私でも“いいよ”って言われると思ってなかったから、びっくりしました」 ほんと、びっくりだよ。
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