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さて、野良猫パラダイスのかず宅であるが、そうは言っても所詮は野良猫、家主の留守を見計らっての所業に過ぎない。
しかしたまには、胆の据わった大物もいる。
ある日。
かずは深夜に帰宅し、即ベッドに潜り込んだ。
かず宅の寝室は、窓際にベッドが置かれ、ベッドの足元に机、枕元には押し入れがある。
押し入れは、奥行きを無視して手前にカラーボックスが並べられ、本棚に転用されている。
カラーボックスの裏側はがらんどう、本棚であるから当然、戸は開けっ放しである。
今にも眠りに落ちる直前のかずの耳に、頭の方からかすかに何かが聞こえた。
んー? 何?
……鳴き声? 空耳?
いや、押し入れの奥のほうから途切れ途切れに聞こえるのは、確かに、か細い鳴き声。
「みゅー……みゅー……」
……!?
かずは布団をかぶったまま、頭を整理する。
どう考えてもこの声は……生まれたての赤ちゃん猫。いやまさか。
起き上がり、本を詰め込んだカラーボックスの隙間から、恐る恐るその裏側を覗き込むと、そこには。
「フーッッ!!」
月明かりを浴び、キラリと光る双眸!!
ママ猫特有の、威嚇する唸り声!!
野良猫が出産していた。
うっそ~っ!!??
少々のことでは驚かないかずであるが、さすがにこの時は、生まれてこのかた五本の指には入るくらいに驚いた!!!!!
どうする!?
野良のママ猫を刺激するのは、あまりにも危険だ。
だからといって、このままここで子育てしてもらう訳にもいかない。
かずはたっぷり10秒考えた。
ママ猫はたった今、家主に見つかったことを自覚したはず。
ここは危険だと察知したはず。
きっと朝までには、子猫を連れて自主的に避難しようとするに違いない。
そう、願わくは、平和的に自主退去していただきたい。
そのためならば、家主の安眠する権利には、この際一晩だけ目をつぶろうではないか。
かずは、ママ猫が退去しやすいように、真夜中の玄関戸を全開にした。
玄関までのママ猫の通る道筋を考えて、通り道からは身を隠すことにした。
そうして、ベッドで寝るのをあきらめ、応接間で息を潜め、ひっそりと一夜を明かしたのである。
目覚めた翌朝、かずは自らの一夜の努力の成果を確認すべく、さっそく押し入れを覗いた。
「フーッッ!!」
……まだおいでになった。
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