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なぜ出て行かない!?
私が怖くないのか!?
かずは考え、少々脅しをかけることにした。
皮手袋をはめ、意を決して押し入れに手を突っ込み、素早くまさぐる。
「ウニャーッ!!」
ママ猫の威嚇が攻撃に変わらぬことを祈りながら、手に触れた小さなカタマリを、一瞬取り出して、すぐに戻した。
チラッと見た子猫は、白かった。
さあ、『ここは危険』と、脅しはかけた。
私が今から仕事で留守にしている間に、頼むから出て行ってくれ!
かずは祈りつつ出勤した。
その夜、帰宅したかずは押し入れに直行する。
「フーッッ!!」
……まだおいでになった。
ガックリ肩を落とす、かず。
それでもいちるの望みをかけて、再度脅しを繰り返し、二日目の応接間での夜を過ごしたのである。
翌朝。
「フーッッ!!」
……ここまで来れば明白である。
ママ猫に、出ていく気配は微塵もない。
かず宅の居住権はすでに、完全にママ猫に移行しようとしていた。
かずは覚悟を決めた。
フタ付きの丈夫な段ボール箱を探し出した。
長袖を重ね着し、皮手袋をはめ、タオルで目だけ残して顔をぐるぐる巻きにした。
少々ママ猫が暴れても大丈夫と思われる重装備である。
そしてかずは、野良猫親子の強制退去に踏み切った。
親子ともども、一気に箱に押し込み、箱ごと外に運び出す計画である。
まずは子猫からだ。
エイっと押し入れに手を突っ込む。
「ウニャーッッ!!」
ママ猫は、声こそ上げるが、攻撃して来ない。
手早く子猫を段ボールへ。キジ、キジ、白。3匹いる。
ママ猫を決死の思いで引っ張り出す。
拍子抜けするほどに抵抗しない。
押し入れの暗闇から姿を現した彼女は、赤い首輪をした、白猫だった。
ああ、元々は飼い猫だったんだな、お前さんは。
家の中が安全だと、人間は安全だと、そう思ってるんだな。
意外にも素直に強制退去に応じた彼女と子猫3匹。
情が移りそうなのを抑えつつ、とりあえず段ボールごと納屋にお連れして、かずは晴れて安心して出勤した。
その夜。
帰宅したかずの目に映ったのは。
再び押し入れから光る双眸!!
そして子猫はキジ、キジ、白、もひとつ白。
……いつの間にか4匹に増えていた。
おおーいっ!!
どーゆーこっちゃ!!
いいかげんにしろーっっ!!
それ以来かずは、戸をきちんと閉めて出かけるようになった。
まあ、これもまた、日常。
……って、んなワケあるかーっっ!!
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