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「仕方ないわ。万にひとつのこともあってはならないんですもの」
セレスティーヌは、軽く肩をすくめた。
一抹の後ろめたさとともに、先ほどとは違った種類の不安が胸に忍び寄ってくる。
そんなセレスティーヌの胸中を見透かしたかのように、リディアがふりむいて明るく笑いかけた。
「大丈夫ですよ。今宵の舞踏会に集う方々は上流貴族の方ばかり。万にひとつの過ちも起きやしませんよ」
「そうね……」
はにかんで微笑しながら、セレスティーヌは長い睫を伏せた。
(いいのかしら、本当に舞踏会に行っても……)
生まれてからずっと城の中で暮らし、外界との接触を絶ってきたのだ。
外の世界を覗いてみたいという気持ちは、当然ある。
殊に、舞踏会という華やかな響きには、年頃の娘らしくある種の憧れを抱いていた。
(大丈夫よ。ちょっと行って、すぐ帰ってくるだけですもの。何も起こりっこないわ)
言い訳のように、セレスティーヌは胸の中でつぶやいた。
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