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「え、ちょっ!千代、どうしたの?」
目の前の千代は体を震わせて俺のことをまっすぐと見据えていた
その目は怒りに満ちてはいたが、どこか悲しそうな…
それでいて、自分に何か訴えかけるようなそんな目をしていた
「そばにいたのに…ここのところずっと…」
「……」
そう呟いて声のトーンを少し小さくした
千代自身、自分でも大きな声を上げたことに驚いたのか尻すぼみにポツリポツリと言葉を発し始めた
「京太が…何か悩んでいると思ったから…それが自分のことなんだってすぐにわかった…でも朝あんなこと言ったし…だからそばにいて、すぐに何か言われてもいいようにしてたのに…」
「……」
そうだ…千代はいつもそばにいた
今週いっぱい、テストの勉強も二人で一緒にやろうといったのは彼女だったし…
それでいながら黙ってそばにいてくれた
その姿に勇気をもらったから行動しようと…
行動?
自分は…何に対して…行動しようとした?
実際、今言ったことを思って千代はずっと俺のそばにいてくれた
千代は俺のそばにいるという行動をしたんだ…
じゃあ自分はどうだ?
そばにいてくれる彼女に対して何か言ったか?
なぜあんなことを言ったのか真意を聞いたのか?
ただただ、居心地がいいから自分の持っている悩みから目を背けて…
終わってから考えようと後回しにして…
千代はずっと気にしてたに決まってるじゃないか
人を傷つける発言しない子だって…そばにいる俺が…彼氏である俺が一番わかっているじゃないか…
なのに俺は…
教室はいつも通りの下校前の喧騒に包まれていた
昼食をどこでとるか~とか…早めに終わったからパーッと遊ぶか~とか…
そんなどうでもいい会話が左から右へとをすり抜けていく…
「……そうやって…今も何も言ってくれない…」
「……!!いや、これは…」
「わかってる…何か考えているんでしょ?それはきっと今の私のこと…」
「そ、その通りだけど…」
「今は言えない?悩みなら聞きたいよ…二人の仲を案じての悩みなら…なおさら話してよ!」
弱まっていた語気がだんだんと強くなる
ここ数日溜めていた分だろう…他でもなく、俺のせいで…
「私…彼女だよ?あなたの…京太の一番そばにいる人…今までも、これからも私はそのつもりなのに…」
「…っ!!」
そこまで…俺は彼女に…千代にそこまで言わせるのか…?
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