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…………
千代視点
最悪だ…
やってしまった…
いつもより軽い鞄をわきに抱えて廊下を歩く
テスト結果返却で早く学校が終わるためか、はたまたこれから来る夏休みに期待してか、廊下にはたくさんの生徒が目を輝かせて近しい人たちと会話を楽しんでいる
夏休みどこ行こうか?部活までどこで時間をつぶそうか?テストの補習はいつから何だろうか?
そんな何気ない楽しそうな会話が耳を通り抜けて消えていく
窓からの夏の日差しは生徒たちの気持ちを高ぶらせるように廊下にサンサンと降り注いでいた
「………」
溜息すら出ない
さっき涙は浮かんだが頬をつたう前に乾いてしまった
思わず感情的になってしまった
ずっと我慢してた…京太が話してくれるまで…話してもいいと思えるほど自分のことを信頼してくれるまで…ずっとそばにいるつもりだった
でも結局…相手は私じゃなくて初城さんだった
初城さんのほうが信頼されているとか、彼が気持ちを押し殺して私に付き合っているとか
そういうのではないのはわかっている
曲がりなりにもずっと…ひと月ほどだけれどずっと
彼の隣にいて彼を知ろうとした
美春さんから言われた彼を知らないというのも事実だし、私と京太がお似合いだといわれることもないカップルであることも事実だ
だから精一杯、彼とともに歩もうと思った
誰に何を言われてもいいように、それくらい彼のことを理解しようと思った
だけど実際は…
ただ自分のしたことを理解しない京太に腹を立てて、勝手に怒鳴って落ち込んで、気持ちを吐き出すだけ吐き出して話も聞こうとせずに逃げ出した
なんて子供なんだろう…なんて醜いのだろう…
最悪だ…一番やってはいけない…美春さんにも言われた、彼を傷つける感情的になって動く人間の行動そのまんまを…してしまった
怒鳴ってしまったことの焦りと不安と悲しみと…
いろんな負の感情がぐるぐると私の心をかき乱していた
もう本気でダメかもしれない
「えー、今日ほんとに遊ぶの?勉強は?」
「いいじゃん!行くよ美春!遊園地の券の借り、まだ返してもらってないんだから今日は一日私に付き合いなさい!」
後ろに聞き覚えのある声とそうでもない声が聞こえてハッと我に返った
気が付けば校門の前だった
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