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放課後。帰ろうとした輝雪に担任が声を掛けた。
「高宮ー。ちょっと頼まれてくんない?」
輝雪は世界地図を抱えて階段を上る。授業で使った教材を資料室に運んでほしいというものだった。
歩きながら輝雪は考えていた。
――うちの事務所の目玉となるもの。そしたらやっぱり新人発掘か……。いやでもうちにはいい人材が揃っている。だけど新しい風が必要か……?
知らず知らずのうちに、眉間にしわが寄っていた。
資料室にたどり着いて、地図を置いた。資料室にはこもった空気が流れていて、輝雪は窓を開けた。爽やかな風が吹き込む。
その時だった。開け放した窓の外から歌声が聞こえてきた。
それはどこか懐かしくて、優しくて、切なくて――。少女の透き通った声が輝雪の耳に届いた。
気付くと輝雪の頬に涙が伝っていた。声の主を探そうと輝雪は窓から身を乗り出した。どうやら声は屋上から聞こえてくるようだ。
輝雪は資料室を飛び出していた。
勢いよく屋上の扉を開く。
辺りを見渡すが、人影はない。そこには青空が広がっていた。
「いったい、誰が……」
呟きだけが、晴れた空に溶けた。
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