シキとキセツ

4/20
前へ
/31ページ
次へ
 放課後。帰ろうとした輝雪に担任が声を掛けた。 「高宮ー。ちょっと頼まれてくんない?」  輝雪は世界地図を抱えて階段を上る。授業で使った教材を資料室に運んでほしいというものだった。  歩きながら輝雪は考えていた。  ――うちの事務所の目玉となるもの。そしたらやっぱり新人発掘か……。いやでもうちにはいい人材が揃っている。だけど新しい風が必要か……?  知らず知らずのうちに、眉間にしわが寄っていた。  資料室にたどり着いて、地図を置いた。資料室にはこもった空気が流れていて、輝雪は窓を開けた。爽やかな風が吹き込む。   その時だった。開け放した窓の外から歌声が聞こえてきた。  それはどこか懐かしくて、優しくて、切なくて――。少女の透き通った声が輝雪の耳に届いた。  気付くと輝雪の頬に涙が伝っていた。声の主を探そうと輝雪は窓から身を乗り出した。どうやら声は屋上から聞こえてくるようだ。  輝雪は資料室を飛び出していた。  勢いよく屋上の扉を開く。  辺りを見渡すが、人影はない。そこには青空が広がっていた。 「いったい、誰が……」  呟きだけが、晴れた空に溶けた。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加