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はぁはぁと荒い息を吐き、ごぼごぼと喉を鳴らす。肋骨の隙間に指を差し入れ、どんどん骨の形を歪めていく。
その瞳には何も浮かばない。無機質な表情を浮かべ、辺りを赤い世界に変えながら虚空を見詰める。
口から飛んだ赤い飛沫が目に入り、そこで漸く彼女は瞳を閉じた。
「―――――」
少女の口許が動く。しかし、喉を裂いている為に声が出せない。不明瞭なくぐもった音が血の音に混ざってまろび出る。
ぐちゃぐちゃと中を漁っていた指は、今や掌の半分ほどを中に潜り込ませ、やがて引き抜かれたそれはぬらぬらと怪しい輝きを放っていた。
もう一方の手に持たれたナイフを先程の箇所に入れ、無遠慮に掻き回す。ずっ、ずちゃと身を引き裂く音がして、少女が初めて顔を歪めた。
しかしその表情もすぐに無表情へと代わり、ゆっくりと開けられた目は先程と同じく何も写してはいない。
胸の下に広がった穴は丁字に裂け、腹の上までを赤で染め上げている。白い肌に乗った赤。
紅の化粧と言うには赤すぎるそれは粘液と僅かの肉を混ぜ、怪しげに煌めく。
ぐちゅっと音を立て、また指を侵入させていく。柔らかく暖かなそこへ指を突き入れ、掌を飲み込ませ、ついに手首を沈めた。
とくとくと脈打つそこへ器用に手を伸ばし、そっと指先で撫でる。
身体中に血液を送るその機関。彼女の手は漸くそこへ届いた。
「くぅ……ごぼっ」
全身を襲う生理的な悪寒。誰しもが感じるそれを彼女はまざまざと感じ取り、しかしその嗚咽すら言葉にはできない。
膝をゆっくりと曲げれば同時に背が丸くなり、より奥へと指が届いた。
氷の上にまで流れ出した血は、熱によって溶けた氷と混ざり合い、無色透明な液体へと変わる。
しっかりと脈打つそれを掌に納め、少女はぎゅっと握り潰す。
ぶちゅっと絞り出すような音がして、まるで噴水のように赤い飛沫が口から飛ぶ。びちゃびちゃと落ちてくるそれが彼女の顔へ紅を落とし、壮絶な死化粧へと変えていく。
最期の時、ずりゅっと少女が手を引き抜いた。その手は冷たい氷の上へ叩き付けられる。
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