きっかけ ②

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「……」 気のせい気のせい。 空耳空耳、無視無視。 駅のざわめきに紛れ、後ろから聞こえた声を華麗にスルー。 「おいっ、待てって!」 振り返りもせずに改札を通り抜けようとした私を、強引に引き止める声と手。 肩に乗るそれをベシッと叩き落とし、 「なんの用?」 と、尖った返事をした。 「……怒ったんなら謝るよ。悪かった」 他の人の通行の邪魔になるので、一旦、横に避けた私を再度引き寄せる矢島和樹。 「…怒ってない。離して」 掴まれた腕を肩と同じくベシッとはたき落とし、そっぽを向いて答える。 「……そ。 なら、ちょっと待ってて」 私から離れ、人混みに紛れて行く矢島和樹。 ……別に、 待っている必要ってないよね? うん。帰ろ。 さっさと改札を抜けると、タイミングよくやって来た電車にそのまま乗り込んだ。 ばーか。ばーか。 矢島和樹のばーか。 黙って大人しく待つ女じゃないよーだ。 窓際からチラリと改札を覗けば、丁度こちらに目を向けた矢島和樹の唖然とする表情が見えた。 それに思わず、高笑いしたくなるのを堪え、ベロベロバァ~ッとふざけた顔をしてやった。 バイバーイ、矢島和樹。
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