3551人が本棚に入れています
本棚に追加
/631ページ
「……」
気のせい気のせい。
空耳空耳、無視無視。
駅のざわめきに紛れ、後ろから聞こえた声を華麗にスルー。
「おいっ、待てって!」
振り返りもせずに改札を通り抜けようとした私を、強引に引き止める声と手。
肩に乗るそれをベシッと叩き落とし、
「なんの用?」
と、尖った返事をした。
「……怒ったんなら謝るよ。悪かった」
他の人の通行の邪魔になるので、一旦、横に避けた私を再度引き寄せる矢島和樹。
「…怒ってない。離して」
掴まれた腕を肩と同じくベシッとはたき落とし、そっぽを向いて答える。
「……そ。
なら、ちょっと待ってて」
私から離れ、人混みに紛れて行く矢島和樹。
……別に、
待っている必要ってないよね?
うん。帰ろ。
さっさと改札を抜けると、タイミングよくやって来た電車にそのまま乗り込んだ。
ばーか。ばーか。
矢島和樹のばーか。
黙って大人しく待つ女じゃないよーだ。
窓際からチラリと改札を覗けば、丁度こちらに目を向けた矢島和樹の唖然とする表情が見えた。
それに思わず、高笑いしたくなるのを堪え、ベロベロバァ~ッとふざけた顔をしてやった。
バイバーイ、矢島和樹。
最初のコメントを投稿しよう!