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《14》
『…奨太が女の子連れてるなんて
珍しいんじゃない?
奨太のタイプって…
こんな感じなんだ』
“こんな感じ”
彼女の言葉に刺を感じたのは
きっと
気のせいじゃない
桐谷さんの横にいる私に
上から下まで
舐めるように注がれた女性の視線
その視線に耐えられず
思わず俯いた
そんな私の身体を
桐谷さんの大きな手は躊躇することなく
自分の胸に引き寄せる
『…“こんな”って…
あんまり気分よくない言い方だね
彼女に謝って?』
いつも仕事でみせる表情と変わらない笑顔で
でも
言葉を発した声は
低く冷たい
彼女を見つめる瞳は
…笑ってない
相手は大事な常連客なのに…
まずいですってば
『…桐谷さん…
私は全然気にしてませんから…っ』
『…君がよくても僕が嫌』
そんな…っ…
このままだと…大事なお客さん怒らせちゃう
『…別に奨太が怒るような意味で言ったんじゃないんだけど?
奨太にしちゃ今までのタイプと違うんじゃない…って思っただけ
だからそんな顔…しないでよ』
今までのタイプ…?
そう…だよね
こんな素敵な人
ずっとフリーだった訳…ない
そんなわかりきったことなのに
胸がチクン…って痛んだ
『…そう…ですよねぇ…
あはは…っ』
チクン…チクン…痛い
なんとか笑って彼女の意見に相槌打つも
桐谷さんの表情は微妙なまま
なんとなく居心地が悪くなって
咄嗟に口を付いてでた言葉は
『…あ…私…っ…
ちょっとお手洗いに行ってきますね』
ここから逃げ出したい
空気が読めていない本音が
だだ漏れしたものだった
駆け出した私に
桐谷さんの呼ぶ声が遠くから聞こえたけど
聞こえない振りをした
ううん…聞こえなかった
だって
お手洗いに間に合わなくなっちゃうから
頭の中で
誰かが警鐘を鳴らす
嫉妬と独占欲にまみれて
傷付いた果てに
大事な人が傍にいてくれる保証はある?
大丈夫…?
このままで
いいの…?
彼を好きでいても
『…あ…、…雨…』
ポツン…ポツンと振りだした雨は
次第に強くなってきたけど
お手洗いの場所なんて
最初から目指してないから
適当に歩いた先には
何も…ない
逃げ出してきた手前
戻る事もできずに
ただ
足が赴くまま
歩き続けた
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