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『…冷た…っ』
傘もないまま
強くなってきた雨に打たれて
急いで一番近くにあった店の軒先に駆け込んだ
なかなか降りやまない雨を見上げて
前にもこんなことがあった
━桐谷さんと初めて会った日━
あの日も雨に打たれて
こうして雨宿りしてた
そして
『…天気予報なんて
あてにならないね』
そう
彼が笑いながら…
…え…
声…がした
あの日と同じ声
振り返ると
今、頭の中で描いてた
あの日の光景が
重なった
『…探したよ…麻紀ちゃん』
『…桐谷さん…』
さっきからずっと考えてた
彼を好きでいていいのか
独占欲に負けて
みっともない女にならないか
そんな私に愛想をつかされて
…いつか突然
彼が離れていかないか…
そんな事ずっと
グルグル頭の中でループして
見えない答えを模索してた
でも
『…おいで?』
あの日と違うのは
彼が差し出した手
結局
その手を
拒めなくて
その手を握り締めた
次の瞬間
フワリと浮いた身体を
ぎゅっ…っと抱き締められて
その腕の中があったかくて
涙が出る
『“僕のものにしたい”
…そう言ったよね?』
『…はい』
『君が心配してるのは
…何?』
耳元に感じる桐谷さんの唇と甘い声
『…わかりません…』
…ほんとにわからないの
言葉にできない不安が
どうしても伝わらない
『…そっか…』
少しだけ困った顔をして
彼が大きく息を吐く
でも
彼は優しい
それ以上は何も聞かずに
コツン…と額を合わせて
『こんなに濡れちゃって…
イベント近いのに風邪ひいたらどうするのさ
君がダウンしたら
僕が困るんだからね?』
なんて笑って
ゆっくり髪を撫でてくれた
『…すみません…』
桐谷さんの言葉は私を叱るような言葉だけど
声は私を癒してくれる
この人は…
どうしてこんなに人を惹き付けるんだろう
この人から もう
ハナレラレナイ
そんな事は私が一番
わかってた
きっと
初めて会った時から
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