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「千尋、おはよう。仕事やっといてくれたんだね。びっくりしたーー。でも助かった。ありがとう。」 事務所に入ってすぐ、満面の笑みの美香さんと目が合う。 仕事やっといてくれた? 頭に並ぶハテナマーク。 私たちの仕事は販売管理システムに反映される家具の寸法だとか、受注、予約状況、顧客などのデータ入力が主。 基本的にはそれぞれのデータに入力期限が決められていて、それまでに仕上げればいいので、春の引越しシーズンを終えた今は、比較的余裕がある時期だ。 それゆえ、それぞれが仕事量を調節しながら休みをとり、お互い休んだとしても仕事を代わりにやっておくことはあまりない。 有休が取りやすい理由はその一点に尽きる。 迷惑をかけずにすむから。 「え?美香さんの分?」 「ほら。フローラのシリーズの受注。あれだけ少し急いでって言われてたの昨日ふと思い出して。今日残業覚悟で来たんだ。」 デスクに向かいパソコンを起動する。 フローラ……。 まさか。 家具のシリーズ名を聞いて、昨日残業中に私の横にポイポイと書類を山積みにしていった岡田さんを思い出した。 「あーー。あれ、美香さんの分だったんだぁ。」
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