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ほんのり浮かんだ涙は約一ヶ月ぶりの滴(しずく)。
「泣いて。ちゃんと感情だして。」
純さんはそう言うと、私の浮かんだ涙を溢させるように指で下瞼を軽く下に引っ張った。
ポロリ……
一粒零れ落ちた滴。
純さんは、これも気づいてたの?
泣かないと決めて、いつしか泣けなくなっていたことに、純さんは気づいていた?
彼はこんなに、私を見ていて、私を分かってくれて、さりげなく私を救ってくれるのに。
私は傷つけるだけで、何一つ彼にしてあげれていない。
自分本位で、子供で。
こんな自分がすごく情けない。
「感情、隠さないで。見えなくなったら声とか涙がないと千尋を分かってあげられない。我慢しないでちゃんと気持ち教えて?」
どこまでも優しい彼に、ギュッと胸が締め付けられる。
そんなことも気付かず感情を押し殺してきた自分。
自己嫌悪でもう、消えてなくなりたくなった。
不意に浮かんだ、帰り際の岡田さんの言葉。
ーーもう少しマシな顔、させろよ。
あれは…………
どうして私はすぐに純さんに向けた言葉だと思った?
なに、私、被害者面してるの?
あの言葉は、別れの挨拶のついでに、そのまま私に向けられた言葉だったかもしれないのに。
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