Lips．

１９

辛い事実を無理して心の中で消化することが、本人の前でいつでも笑顔を絶やさず普通に接することが。

それが、強さ、なの？

次々襲いかかる疑問に答えなんて出てこなくて、ただただ本能のまま、子供のように泣きじゃくった。

そんな私を純さんは黙って抱き寄せ背中を撫でてくれて。

それが更に涙を誘う。

気が付いたら、私は純さんのベッドに横になっていた。

「…………起きた？」

ぼやけた視界にフワッと栗色の髪が映り、純さんの綺麗な顔が覗く。

「え？寝、ちゃってました？」

「泣き疲れたみたいだね。だんだん声が小さくなって動かなくなった。」

泣きながら寝る人、初めて見た、とククッとからかうように喉を鳴らして笑う純さんは、普段の純さんに戻っていた。

「どう？頭痛くない？」

まだ寝転んだままぼんやり彼を見ていると心配そうな顔をして彼は尋ねる。

言われてみると、片頭痛みたいにズキっとするような気がする。

連日の睡眠不足の上に、たくさん泣いたからだろうか。

「……少し。」

「そう。お腹は？すいてない？食べれる？」

「い、いえ。すいてない。」

話しながら、麻婆豆腐を作っている最中だったことを思い出したけれど今は食欲より眠気が勝っていた。

「じゃあ、朝早めに起こすから、このまま眠りな。」

柔らかく笑んだ純さんの手が私の髪を掻き上げ、こめかみにそっと唇がおりてきた。

柔らかいその感触に安堵して、私はまた再び眠りに引き込まれていく。

ーー純さんの体温があれば、お酒に頼らなくても眠りにつけるんだ。

朝も、さっきも、今も。

そういえば……

瞼を閉じた状態でふと思い出す。

ーー怖くない。

ずっと悩まされていたあの日の彼の手の残像が浮かんでこなかった。

あれ？

脳が何かに気付く。
しかしその何かを考える間もなく、頭を撫でる温かな彼の手の感触に安堵しながら心地よい眠りについた。